
飲み疲れて自宅に帰ってきた夜のこと。煙草を吸いながらテーブルに置いてあった毎日新聞の夕刊(2018年12月17日)をパラッと開くと、いきなりデカくてヘンなものが目に飛び込んできた。大きく掲載された毎日新聞朝刊一面の写真だ。
んっ? と思ってよく見ると写真の上にうっすらと知らないオッサンの顔が浮き上がっているじゃないか。ゲッ、きもちわるっ、と思いながらも記事を読むと、またまたビックリ。
なんと、これは写真じゃなくて絵画なのであった。吉村芳生という作家による『新聞と自画像』シリーズの一作だ。
この「ヘン」を発見したのは永田晶子記者。彼女は作品を見た時、「これはヤバい」「ヘン」と衝撃を受けたというが、よくわかる。というのも、この作品は新聞紙の上に自画像を描いたのではなく、新聞一面の文字、写真、広告にいたるまで、すべて自筆で描かれているのである。その制作作業を想像すると気が遠くなり、ぶっ倒れそうになる。恐るべき執念。いったい、何日かけて描いたのだろうか。なぜそこまでするか、作品のモチーフは? といった疑問は空しい。ただ、作品を前にすると自分の中の何かがざわめくのはどう
したことか。
つまるところ、アートとは日常は沈潜している感情の奥底の何かをつついたり、殴ったり、揺さぶったりするものなのかこしれない、と妙に納得した夜であった。
吉村芳生(よしむら・よしお)
195年、山口県に生まれる。2013年没。上京後、版画家として美術展に出品を重ねるが
、1985年に故郷に戻り、細密画を手掛ける。近年、森美術館で開催された美術展を機に再
び脚光を浴びるようになった。