あのような作風の漫画などを描いているものの、性的な嗜好はいたってノーマルで面白味がないなあ、と我が身を省みて残念に思う……。という程のことでもないが、身近にかの平口広美御大(まあ仕事ではあったが、あそこまでいくと……)が、そして最早生涯の「親友』となってしまった佐川一政氏が立ちはだかるのだから、私に出る幕なし。
よって、この連載で自分の性的な嗜好に言及することはないかな、と今のところ思います。
という前置きはここまでにして、今回はいわゆるセンズリに対する取り組みを、かつては嘲笑し、今や尊敬する瀬川君(五十七歳独身)のことを書かせてもらいます。
瀬川君は、仮に犯罪でも犯して新聞に出たとすれば、「自称」の二文字がのっかってしまうかもしれないが、職業フリーライターと載るはずである。そう、彼は三十年に及ぶライター生活を送るれっきとした物書きである。
本人はとりわけ音楽ライターという意識が強いが、私はむしろ詩人(十年に十行くらいしか書かないが)としての才能を感じている。
瀬川君は照れ屋で、私と友人たちが沖縄へ講演に行ったりすると、そっと沖縄までつけて来て、会場の中には決して入らず終演後に公衆電話から電話をかけてきて、我々の様子をうかがったりするのです。
こちらは「本当について来たのか」「本当に会場の近くにいるのか」とついつい疑ってしまい、我々の道中の様子や会場入り口の様子を尋ねると、「あ、今会場からピンクのスカートの娘が出て来て、雑誌で顔を扇いでますね」などと、ピタリと当てる。
本当に近くにいるんです。しかし、絶対に姿は見せないのです。
が、とにかく近くにいるんですよ。
東京でイベントをやった時も、しばしば終演後に偽名及び出まかせの雑誌名を名乗り、やはり公衆電話で会場に電話をかけてくる。
時には、そっと私のあとをつけてくることもあります。
ある日、青林工藝社アックス編集部の高市さんと二人で中華料理屋に入ったら混んでいて、私たちのすぐ真横につけて来た瀬川君が座るはめになってしまった。でも、つける者とつけられる側の「礼儀」として、お互いに気付かぬ、気付かれずのフリを通したのでした。
ところで、「礼儀」といえば、シンガーの友川カズキさんが約三十分独壇場のトークを繰り広げた深夜番組を思い出します。
番組は十五年以上前に放映されたものですが、友川さんは一から十まで、すべてセンズリの話しかしなかった。
番組内で、宮沢りえがお母さんと一緒に友川さんのアパートに一度遊びに来たことがあるという話になり、インタビュアーが「やはりその時も帰ったあと(かいたのですか?)」と問うと、友川さんは深く頷いてキッパリと「礼儀だ」とおっしゃった。
それで瀬川君に話を戻しますが、私は何故今や瀬川君のセンズリに敬意を払うようになったか。
まず、瀬川君はエロ本、AVなどに頼らず、ただひたすら妄想に我が身を委ねるということ。その妄想の中で性的な関係を結ぶのも、アイドルや女優でも、街で見かけた可愛い娘さんでもない。
彼のセンズリの対象は、政治家、活動家、探検家といった逞しい中高年の女性たちなのであります。
高市早苗、野田聖子、蓮舫、丸川珠代、辻本清美、稲田朋美、あげくは田中真紀子まで強面の女性政治家と、妄想の中でとはいえ実に幅広く、次から次へと関係しているのです。
もちろん、小池百合子東京都知事、またトランプに敗れる前のヒラリー・クリントンとも瀬川君は関係を持っています。
選挙運動が熾烈を極める時、とりわけ彼女らは性的な魅力に満ちるそうです。上半身スーツ姿の小池百合子、ヒラリー・クリントンが瀬川君の上に馬乗りになって、無理やり性行為を強いている様がヌケると言い、決して自分が上になり正常位で組み伏せてはいけない(行けない)そうです。
妄想の中で、瀬川君は色々なものに変身したりもします。
女優、泉雅子が北極探検の時に寒さに耐えられる体をつくるために太り、まあとにかく北極で犬ぞりに乗ってましたね。
瀬川君はいまだにその時の雅子さんを思い出しては興奮して妄想し、センズリに耽るのですが、その場合そりを引いていた犬になったり、北極熊になったりと、とにかく獣姦というシチュエーションで雅子さんを犯しながら果てるそうです。
しかし、彼から聞いたセンズリの中で私が一番気に入ってるのは、瀬川君がボブ・ディランになって、高市早苗や野田聖子、あるいは田中真紀子とまぐわうというやつです。
その時、瀬川君はサングラスをかけ、ヘッドフォンでボブ・ディランを聴きながらディランに成りきってセンズリをかき、時に一緒に歌いながら気持ちよく果てるそうです。
まあ、そんな瀬川君ですが、先日会った時「どう、最近センズリの方は?」と尋ねたところ、こう返ってきました。
「それが、元々そのケ(と言って手の甲を頬に当てる)はなかったんですが、最近大谷翔平に性欲を感じてドキドキしちゃうんです。このままではセンズリかいちゃうかもしれません。まずいなあ、彼と関係しちゃうのは……」
大谷選手とどうなろうが、彼の勝手です。
しかし、今後も瀬川君のセンズリから私は目が離せないのであります。