荒木さんがこの前(2017年)に東京都写真美術館で個展をされた時、レセプションで私ども「ペーソス」(中高年歌謡グループ)も演らせて頂きました。その前に荒木さんの挨拶があって、マイクの前に立たれたわけですが、周りを囲んでいた関係者の中にいた、黄色っぽい着物姿の若い女の子がいて、荒木さんは彼女に声をかけ、舞台に上がらせたんです。
その子は実は私も知っている女の子で、池嵜瑞希ちゃん。20代の若さで荒木さんのファンです。何故このレセプションに参加できたかというと、渋谷の東急文化村にある映画館ル・シネマの支配人である岡田重信さんに連れて来てもらったみったいでした。
荒木さんはたまたまそばにいた黄色い着物姿の若いコをそばに立たせると華やかになるだろうと考えて隣に立たせた感じでした。でも瑞希ちゃんは驚いてかなり興奮ぎみ。その時私は「えーっ!」と声を漏らしたんです。
というのも以前から彼女に、荒木さんに撮って頂きたいという想いを告げられていたからです。実際、後で荒木さんに紹介してあげようかな、なんて思っていたんです。
いやぁ荒木さんって全部お見通しみたいなところがある人だなぁって感心しちゃいます。その後、荒木さんの体調もあって未だに実現していませんが、一応お会いする時にはチラチラと瑞希ちゃんのことを話しています。
ところで不思議なのは、瑞希ちゃんは元々アラーキーファンというわけでは無かったんです。これが何と1990年に亡くなられた奥様の陽子さんの著書の愛読者で、陽子さんが絡んだ出版物すべてを収集している、陽子さんファンだったというから驚きです。
当然のこと「荒木陽子全愛情集」(港の人)刊も読んでいて、読めばとにかく文章そのものが荒木さんへの愛で満ち溢れているわけですから、女の子として荒木さんに憧れちゃうのは自然のなりゆきでしょう。
私、初めてでした。作家としての陽子さんを通じて、写真の天才アラーキーを知るなんて女のコ。しかも若いし。確かに陽子さんには女性ファンが多いということは知っていましたが。
なるほど、だからですよね。荒木さんに自分のヌードを撮ってもらいたいという女性が世代を越えて未だに跡を絶たないのは。
さて、ちなみに私と岡田重信さん、瑞希ちゃんとの関係なんですが、居酒屋さんで知り合いました。渋谷から京王井の頭線で吉祥寺に向かう途中の池の上という駅の近くにある「熊八」という居酒屋さん。この店の常連客である岡田さんと私、そしてそこでバイトしていた瑞希ちゃん、そんな関係でした。
いゃぁこの店面白いんですよ。ご主人がマッちゃんっつって、味のある風貌で私より2個上ですから68歳。ひょうきんでもってお客さんみんなから愛されてます。しかもメチャメチャ安い! 日本酒なんか1合220円ですからねぇ。お店はいつもいっぱいで入れないことも多いから困ってしまいます。
というわけでこの「熊八」の店の唄も私、歌ってます。ハシゴ酒をする曲で、3軒めぐる中の1軒は必ずこのお店に寄るんです。こんなにこの店が好きで、この「熊八」愛を唄い上げているというのに、独りで覗いても座れないことが多いなんてどうよ。
せっかくだからその語りの部分を紹介しちゃいましょうか。
『あ~あ~今夜も~、赤提灯が眩しい~。あ~あ~今夜も~、暖簾をくぐってしまう~。谷から井の頭線の鈍行に乗って、池の上という駅で降ります。改札を出て、踏切を渡って右に行くと、右側にセブンイレブンがあってその先の右側に!「熊八」といういいお店があります! マスターはマッちゃんっつってこの道半世紀! 「よおマッちゃん! 久しぶり!」奥のくの字のカウンターに腰を降ろして「そうねぇ、ホッピーの白もらおっかな。あっ有り難う! おぉっと何だこのお通しは! こんな大皿で何これモツと野菜炒め? こんな量多くて食い切れねぇよ! 何? 返せ? 返さないよ! あ~ウメェ! マッちゃん、中おかわり! あれ? マッちゃんいなくなっちゃったよ! え? 夜9時になると、プイといなくなっちゃうって? 小1時間飲みに行ったちゃう? 何だよそれ! 何々? スグそこを曲がった「源八」っつう焼鳥屋へ行ってんの。ざけんなよ、俺が一言いって来てやるよ!(店を出て)えーと、ここを曲がってああここか。あっいたいた! オイ、マッちゃん1 何やってんだよ、店ほっぽらかして!お客さん何も料理注文出来ねぇじゃねぇかよ! 何? 一杯奢ってくれる? あそう。おぉ~いいの飲んでんねぇ。芋のロックかぁ、ッカーウメェなぁ! もう一杯! でもよぉ早く帰ってやんないとバイトの女のコたち困ってんぞ。俺戻ってっからよぉ、あと15分くらい? わぁった! そんじゃね!」
店に戻るってぇと、お客はドッとふえてて、女のコたちテンテコ舞いですよ。あ~いい気分。「あっ、お勘定は岡田さんにつけといて ね!」あ~今夜も~、酔っぱらってしまいそぉ~、あ~今夜も~、酔いつぶれてしまいそお~」
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